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2022.08.03

こうすれば長持ちする(対談)

コンクリート構造物の保全に対して橋梁新聞の平成17年6月1日号に東海大学工学部土木工学科 笠井教授と東京大学工学博士で界面科学技術機構代表の村瀬代表の対談が掲載されました。

中性化・塩害・ASRで劣化にさらされるコンクリート構造物

中性化、塩害、ASRなどが原因による劣化にさらされる橋梁などのコンクリート構造物。それをどのように保護していくべきか、今回は笠井哲郎東海大学工学部土木工学科教授および、村瀬平八界面科学技術機構代表に現状の修正点を聞いた。また、その答えの一つとして超速乾ポリウレタン樹脂と特許工法を兼ね合わせた工法により、コンクリート構造物には理想的な呼吸できる塗膜を可能にしたジェットスプレー工法についても言及した。

現在の塩害やASRの主因

笠井教授

コンクリート構造物が抱える問題点としては大きく分けて既存構造物の維持補修の問題と新設構造物を如何に効率よ<管理していくか、の2点が考えられます。
現在、高度成長期に作られた大量の構造物は補修の時期を迎えています。この時期はコンクリートの質より量を確保することが優先され、材料だけでなく施工法においても、迅速性をはかるために、ポンプ圧送によるコンクリート打設が急激に普及しました。材料、施工法の面で、耐久性上あまり良くないコンクリート構造物が大量に供給された可能性があります。良質な骨材(川砂利)も枯渇し、海砂や砕石・砕砂を使わざるを得なくなりました。これらのことが現在の塩害やASR(アルカリ骨材反応による劣化)の主因となっています。

積極的な保全計画が必要

笠井

日本は高品質の構造物を製造する個々の技術やシステムは十分整っていますが、造った後の維持管理に関する、システムがほとんど無いか、機能していません。昔は、基本的にコンクリート構造物は半永久的に使えるという認識で造りましたが、現在は適切な時期に適切な処置を施さないと長持ちしないことが分かっています。今後は耐用年数をきちんと定め、その年数分のLCC(ライフサイクルコスト)を意識して、コストを極小化するシステムを考えるべきでしょう。
壊れてから直す消極的な保全ではなく、壊れる前に劣化を予測して積極的に保全していく、構造物の一生を計画して設計することが大事です。
例えば塩害の被害の可能性がある所では、あらかじめ表面被覆を施しておくとか、多少IC(イニシャルコスト)を掛けても50年のLCCで考えれば縮減できるし、構造物も長く持つ。そういう観点が必要でしょう。

「コンクリート構造物」としての長寿命化

「コンクリート構造物」としての長寿命化

笠井

コンクリートそのものの高耐久化は相当進んでいます。しかし、「コンクリート構造物」としての長寿命化となると残念ながら不明な点が多いのが現状です。
コンクリート構造物の構造設計の一つに許容ひび割れ幅という規定があります。この規定がない、言い換えるとコンクリートにひび割れを全く許さないとすると、コンクリートの適用範囲はかなり限定されてしまいます。このためこの規定は必要なのですが、構造的には問題ないひび割れもコンクリート構造物の高耐久・長寿命化を考えると、ひび割れは出来る限り起こしたくないわけです。

主な補修方法と二次劣化

笠井

コンクリート構造物の主な劣化原因は大きく分けて中性化、塩害、ASR、凍結融解の4種類があります。
補修方法としては、主に表面被覆工法、樹脂注入工法、浸透性防水材工法、断面修復工法などが用いられていますが、補修箇所が再度劣化する二次劣化の起きている事例も少なくありません。

なぜでしょうか?

村瀬代表

コンクリート用塗料は、基材を完全な連続面と考えてそのシステム設計を行っています。従来の塗膜は、基材の通常の熱膨張・収縮には追随できますが、亀裂までカバーすることはできません。コンクリートの亀裂が1カ所でも生じれば、塗膜の意味はなくなるのです。

笠井

しかし、この許容ひび割れ幅に対応できるひび割れ追従性のあるコーティング材料でないと、結局、役には立たないわけです。
施工上の問題もあります。前処理や塗布の手間と時間が交通阻害要因となる保全工事には短期施工が求められますが、現在はそれが無い工法か多いことも事実です。

村瀬
環境問題が塗料性能の低下に追打ちをかけています。
PRTR法の施行や来年に迫った大気汚染防止法改正によるVOC規制強化の影響です。
コンクリートの表面被覆に関して、性能向上が求められている一方、有機溶剤の規制強化により、水系塗料への転換が余儀なくされてきているのです。
具体的には水系の場合、溶剤系と比べ、乾燥が遅いため、塗装効率が悪く、一般に塗膜の物性や耐侯性も劣ります。これはコンクリートの長寿命化と二律背反の関係にあります。
問題点の解決策とジェットスプレー工法の長所について

笠井

コンクリートの保護という点から補修材料に必要なのは、ひび割れ追従性と劣化物質遮断性、そして内部溜水の蒸散ができること、即ちコンクリートの呼吸性を兼ね備えたモノです。
なぜ呼吸性が必要かというと、ASR、塩害および凍結融解は外からの劣化物質の浸入だけでなく、内部溜水によっても促進されるからです。コンクリートを常に乾燥状態にすることが、その劣化抑止に効果的なのです。

村瀬

そういう意味では、この通気性のあるウレタン吹付け工法は、極めて有効です。
ウレタン塗膜に独立気泡を作ることで呼吸性が確保でき、伸び率も600%あり、ひび割れ追従性も十分担保できるので、コンクリートの強度の劣化を防止できるのです。

溶剤を一切使わないことも大きな長所です。
ジェットスプレー工法のように100%ノンソルでVOCがゼロに近く、これだけの塗膜強度、伸張性および耐候性をもつ塗膜システムは、水系やエマルジョン系では到底望めません。
これは、柔軟なポリオールを架橋構造中に組み込んだ超速乾性ウレタンポリマーをべースとしており、材料的には目新しいものではありませんが、新しい装置と工法を開発し、この材料と結びつけたところに大きな特徴が得られたものと考えられます。シーズとニーズを摺(す)り合わせつつ、長い年月をかけて創り上げたことが窺(うかが)われます。

笠井

4月に実験結果をまとめたのですが、ジェットスプレー工法をコンクリート被覆材に用いた供試体を水中と空気中条件で繰り返し暴露すると、空気中では質量が減少し、水中浸漬では、質量増加がほとんどありませんでした。乾燥状態では内部溜水を空気中に放出し、湿潤状態では遮水出来ていたことを示します.
もう一つの長所はこの材料は超速乾性であり、システム車を使った大規模な吹付け施工が可能なため、施工性という面でも他の工法と比べ、大きなメリットがあることです。特に施工の迅速性という面では非常に優れています。

笠井
伸び率や呼吸性、劣化物質遮断などに関するオールマイティな能力からいって、特に環境面で厳しい地区の橋脚や床板、桁、高欄など全ての表面被覆に使えると思います。
単なる表面被覆工法だけでなく、JHのコンクリート片剥落防止工法へのエントリーもされているということで、そうした使い方も今後、されていくと思います。
狭義のコンクリート表面保護とは違いますが、吹付け工法のシームレスさと高いひび割れ追従性能、高背圧空気流吹付けによる密着性を生かし、床板防水にも適用できます。同分野に関しては、現在は地覆・高欄の立ち上がり部に使っているようですが、床版中央部にも使えるでしょう。
超速乾性ウレタンを用いたジェットスプレー工法は以上のような構造から、既設構造物の維持管理面でも厳しい環境下の構造物に吹付ける予防保全の面でも使うことが出来ると思います。

村瀬

塗料の特徴は、現場において形状に関係なくシームレスな構造を作り、その塗漢も損傷し難いことが、コンクリートヘの適用に向いています。加えて注目したいのは、ここに用いられるビヒクル(バインダー)が、基材への接音牲に優れていることです。ウレタン樹脂はエポキシなどの他の樹脂よりもコンクリートとの密着性に優れています。塗膜は、剥離しないことが重要で、その際プライマーが基材とトップコートとの接合に重要な役割を演じます。特に乾燥時に用いるウレタンプライマーは、コンクリート表面と電子移動反応により強い結合を形成します。初期接者には分散力だけで充分ですが、水分やイオンが界面に到達すると、それらにより結合の置換が起こり、剥離を生じます。 そのとき化学的な結合があれば、剥離は生じません。これを2次接着性といいます。
これは外部からの水分等の侵入だけでなく、内部溜水の蒸散時も同様で、プライマーとコンクリートの界面接着が破壊されません。ASR劣化と酸性雨劣化とはそのメカニズムは逆ですが、塗膜が水やイオンの拡散透過性を制御すれば、両面の解決が可能になります。それには塗膜のガス透過性、水・イオンのバリア性および2次接着性が決定要因になります。
この工法は、コンクリート構造物の補修ばかりでなく、長期劣化防止対策として、新設橋梁にも広く活用されるべきと考えられます。
塗料は、薄膜で橋梁や大建造物を保護できることを考えると、これほど付加価値を高める建設資材は例を見ません。
今後、コンクリートと塗膜システムのさらなる性能向上により、コンクリート橋梁の寿命を100年以上に延ばしていくことも決して夢ではないでしょう。

むらせ・へいはち
1934年愛知県生まれ。シュトゥットガルト大学を経て関西ペイント技術本部に勤務。
山形大学、信州大学客員教授を歴任。
第16期日本学術会議委員、日本工学アカデミー会員、東京大学工学博士
1980年FATIPEC(欧州塗料高分子国際会議)グランプリ受賞
1990年色材協会賞受賞
専門分野  界面科学、機能性材料、コーティング

 

かさい・てつろう
1959年生まれ
広島大学大学院工学研究科構造工学専攻博士課程を終了後、小野田セメント(現太平洋セメント)に入社、平成6年に東海大学工学部土木工学科の講師となり、昨年度から現職。
現在はJCI・自己収縮委員会委員、土木学会・電気炉酸化スラグ骨材コンクリート研究委員会委員なども務める。

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